大阪大学中之島芸術センター企画
天然表現「投錨するアート」
 
2024年7月2日(火)〜8月4日(日) 7月7日(日)イベントあり
10:30〜17:00 ※月・祝閉館
入場料:無料
 
作品は何かを表現しない。何かを主張しない。問題提起などしない。作品は、制作の体験を志向し、体験を召喚した大海原の一点にあたりをつけ、投げ込まれる錨のようなものだ。そこに立ち、その場所から網を入れることで、作家や鑑賞者は、また新たな形で体験を召喚可能とする。錨は、行こうとする船と行かせまいとする海の間に翻弄されながら、その葛藤を無効にするべく着底する。繊細に推し計りながら、しかし最後は、賽を振るように投げこまれる。その賭けに論理的必然性はなく、表現、主張、問題提起の余地などない。極めて危険なその賭けは、だからこそ外部に触れる。それが創造であり、芸術なのである。
 

 

ご挨拶

 
芸術は昨今、様々な表現が「アート」の語で語られている。アイドルが自身を「アーティスト」と表明したり、社会や政治などの様々な問題意識を「伝えるため」「解決するため」の表現が「アート」と呼ばれ、「〇〇アート」など様々な派生語も生まれたりしている。現在、「アート」は不鮮明であり、なんでも「アート」にされてしまう。「アート」として認識されているほとんどの「アート」とは、エンターテインメント、プロパガンダ、そしてデザインだろう。
 
恐れずに言えば、これらは芸術ではない。これらは、人が為す〈人為=artificiality〉という意味では「アート」かもしれないが、これらは芸術(art)ではない。言うならば、これらは、問題意識や目的を達成する「ため」の表現であり、その表現は過剰であり、その「ため」に創作されたものは過剰なものとなる。そこに、本来、生きている人間の営為〈artificiality〉が囲われ、評価されることは、ともすれば人間が人工知能〈Artificial Intelligence〉の様式に追随することになる。
 
芸術は過剰さを脱色する技術である。芸術は異質なものの閉じた過剰性を脱色し外部へ開くこと、ものを、アートと規定する。これを、天然知能〈Natural Born Intelligence〉による天然表現〈Natural Born Expression〉であると捉えてみる。天然知能・天然表現は郡司ぺギオ幸夫の提唱する創造概念であり、必ずしも人工知能の対義語をとるものではない。天然表現において、意図や目的を宙吊りにし、脱色することが芸術である。芸術か、芸術でないかは一目瞭然だ。しかしながらその違いは、多くの芸術に携わる者や「アーティスト」を自称する者でさえ、混同している。
 
本展では、芸術を志向し、芸術を照射する芸術家を迎え、未来に向け、芸術が復興する種を蒔く。既知の情報をいくら増大したところで、見通すことなどできない大海の未知へ落とす、一擲の錨となる。このとき、芸術は、まるで香りのように浮かぶ島として──島も無いのに島の匂いのする日に⁄H. メルヴィル『白鯨』より──、その姿をうつすだろう。
 
 
 

 
令和6年 大阪大学中之島芸術センター企画展
天然表現「投錨するアート」
科研費基盤研究(C) 23K00237, 22K12231
天然知能、天然表現、投錨の概念は郡司ぺギオ幸夫による

更新情報

6/27 大阪大生×天然表現アーティスト

アーツプラクシス演習の学生作品発表会にて、アーティストを交えた講評会を行いました。

神戸新聞に展覧会紹介記事掲載

7月25日付の神戸新聞朝刊、文化面(17面)にカラー写真3枚とともに展覧会の紹介記事が掲載されました(文:小林伸哉)。無料会員登録でインターネット版もご覧いただけます:神戸新聞NEXT

展覧会図録

会期後に展覧会のアーカイブを印刷予定です。詳しくは追ってご案内します。

7/7 トークイベント開催

バートルビーやナメクジなどのワードが飛び出すトークとなりました。
大海原の一点にあたりをつけ、
投げ込まれる錨

ギャラリー

 
 
◆展覧会の様子Ⅰ◆
 
 
◆展覧会の様子Ⅱ◆
 

作家略歴

《水は時折、とりわけ夜になると》(部分)2022, 喪服・イワヒバ


郡司ペギオ幸夫(ぐんじぺぎおゆきお)
http://www.ypg.ias.sci.waseda.ac.jp/index.html
早稲田大学基幹理工学部表現工学科教授
東北大学理学部卒(理学博士).神戸大学理学部教授を経て2014年以降現職. 著書に『 天然知能』(講談社メチエ2019年)『 やってくる』(医学書院2020年)など多数.2021年より実家に誰も見ることのない作品の制作を始め2022年,日本画家中村恭子との二人展によって写真, 動画やインスタレーションを展示.2023年7月札幌市『 ALIFE2023無意識的関係性展』にてグループ展.作品制作のドキュメントと創造性に関して『 創造性はどこからやって来るか』(ちくま新書2023年)を出版.2024年2月長野市『 もんぜん千年祭』でグループ展.
 
 

《きっちょむの壷 わっとひろげる》古信楽(伝 室町時代)を切断、継ぐ, 34×34×42.5cm, 2015


松本直樹(まつもとなおき)
http://matsumotonaoki.com/
美術家、長野美術専門学校副校長、ミルク倉庫+ココナッツメンバー
1982年長野県生まれ。 2007年東京芸術大学大学院美術研究絵画科修士課程修了。 2004 – 2007年 四谷アート・ステュディウム在籍。既製品や日用品などを用いて、従来の絵画技法や諸造形の要素を分解、その機能を再構築する。主な展覧会に「第二十計混水摸魚」( Gallery Objective Correlative/東京 2007)、「 ナガノオルタナティブ 松本直樹展」( FLATFILE SLASH倉庫ギャラリー /長野 2017)、「まつしろ現代美術フェスティバル 2014」(長野市松代地区 2014)、「気持ちいい絵」(路地と人 /東京 2015)、ミルク倉庫+ココナッツ名義で「 国際芸術祭 あいち2022」、「 もんぜん千年祭2024」アートディレクション担当など。
 
 

《風景の肉体—湿地の王》(部分) 一幅, 絹本彩色, 127.8×51 cm, 2023


中村恭子(なかむらきょうこ)
http://www.kyokonakamura.jp/
日本画家、大阪大学中之島芸術センター准教授
長野県下諏訪町生まれ。 2010年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画研究領域博士課程修了、博士(美術)。日本画と論考による実践研究を行う。最近の展覧会に「 BOG BODY—召喚される身体」(郡司との共同展、 Art Space Kimura ASK?/東京 2024)、 もんぜん千年祭2024(信州善光寺本坊大勧進紫雲閣 /長野 2024)、 中村恭子日本画作品展「風景の肉体」(大阪大学中之島芸術センター /大阪 2023)、中村恭子日本画作品展「脱創造する御柱」(諏訪市美術館 /長野 2022)など。著書に『 TANKURI―創造性を撃つ―』(郡司との共著 2018)など。
 


イベント情報

 展覧会記念トークイベント「投錨するアート」

 
[概 要]
「投錨する」は、郡司の執筆中の新著で示された創造行為の様式を表すものである。
この意味を、それぞれの作家・研究者が自身の実践を踏まえて議論し脱線する。
 
[登壇者]
郡司ペギオ幸夫(天然知能研究・天然表現)
松本直樹(現代美術)
中村恭子(日本画)
 
[期 日] 2024年7月7日(日)14:30~16:00
[参加料] 無料・事前予約不要
[会 場] 中之島芸術センター3階スタジオ